ex nihilō nihil fit(エクス 二ヒロー ニヒル フィト):無からは何も生じない

この言葉は紀元前90年ごろのローマの詩人、哲学者ルクレティウスの言葉です。いかなるものも無から生じることはないという「物の本質」を述べたものだと言われます。

映画「サウンド・オブ・ミュージック」に、「Something Good (何か良いこと)」という歌がありました。主人公マリアがトラップ大佐の愛にこたえるシーンで、「こんなに幸せなことがあるなんて、私は子どもの頃に何か良いことをしたに違いない。(そうでなければこのような幸せは訪れなかっただろう)”Nothing comes from nothing. (無からは何も生じないのだから)”」と歌います。

シェークスピアの悲劇「リア王」でも、この句が出てきます。リア王は3人の娘にどのくらい自分を愛しているかを言わせようとします。リアの財産を狙う姉たちは口がうまく、大げさに父への愛を言い連ねます。それに対して誠実だけれど潔癖で口下手な末娘のコーディリアは”Nothing” (特にありません)”と言ってしまいます。そのとき、リア王は”Nothing will come of nothing.(無からは何も生じないぞ)”と言って、姉たちの方を信じてしまい、コーディリアの真の愛を見抜くことができませんでした。そこから悲劇が生まれます。日本の武士道では美徳とされる”沈黙”や”不言実行”ですが、「リア王」を読んで、愛はきちんと言葉で伝えなければならないのだと思ったものでした。

今、ラテン語を勉強しながら、この言葉がラテン語由来だったことを知り、昔触れた映画や戯曲を振り返って懐かしくなりました。それと同時に、今、この言葉の意味をより痛切に感じます。今の世の中は、物質的には豊かですが、ストレスや異常気象、ウィルス蔓延なども、決して理由なく起こっていることではないと思います。私たちが積み重ねてきた行為の結果なのです。

いいことも悪いことも何かがきっかけになって起こっています。「エクス 二ヒロー ニヒル フィト」とつぶやくことから自分がすべきことが出てくるかもしれません。

  • ex :「~から」を意味する前置詞
  • nihilō :「無」中性名詞nihilum,-ī n. の単数・奪格
  • nihil:「無」不変化名詞 主格
  • fit :「生じる」動詞  fīō の直説法・能動態・現在、3人称単数

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