honestus/ホネストゥス:立派な

昨日、山下太郎先生のラテン語講習会(https://aeneis.jp/?p=2722)でセネカの『人生の短さについて』(12-3~5)を読みました。その中で、印象に残った文について記します。

・・・quī comptior esse mālit quam honestior (より立派な者であることより、より飾られた者であることを望む人)、そんな人間をセネカは批判し、”飾る”ための時間とは”怠惰”であり、真に”生きている”時間には数え入れないといいます。具体的には、理髪店で理髪師に対してあれこれ細かく注文をつけたり、思ったとおりにできないと激怒する”髪がいのち”のような客が例にあげられていました。繁栄を極めた当時のローマの世相が垣間見られる面白い下りです。いつの時代にも、豊かさの裏でありがちな話だと苦笑いしてしまいました。

単語としては、honestus(立派な、高潔な…英語honestyの語源)の比較級honestiorと、comptus(飾られた、優美な)の比較級comptior が対照的に使われています。前者は本質的な高潔さ、後者は表面的な美しさという対比です。

また、やはり批判の的となっているのが、以下のような人々です。

・・・ut nec bibant sine ambitiōne nec ēdant.(人気とりばかり考えているため)誇示することなしには、食べも飲みもしなくなっている人。豪華な宴会で、おまちかねの演出たっぷりに丸焼きのイノシシが出てきます。さらに巧みな包丁さばきで切り分けられる肉料理に大満足。そして吐くほどに酔う、それが贅沢だともてはやされ、人気をとるわけです。今風にいえば、飲んだり食べたりするのは、”映える”料理で”いいね”をもらうため、ということになります。こういった人たちの時間の過ごし方をセネカは痛烈に批判しています。言葉が切り出す場面が印象的でした。

山下先生の教科書(『しっかり学ぶラテン語』)の中に、サッルスティウス(B.C1世紀の共和制ローマの政務官)の言葉が載っています。Esse quam vidērī bonus mālēbat.(彼は立派だと見られることよりも立派であることを望んでいた)(『カティリーナ戦記』54) 

真実と虚飾。繁栄するローマにおけるテーマだったのだと思います。それがいまだに通じることにあらためて驚きます。

〈語釈〉

  • quī: 関係代名詞(~ところの者)男性、単数、主格
  • comptior :第1,2変化形容詞comptus, – a, -um(飾られた)の比較級 男性、単数、主格
  • esse :不規則動詞sum, esse 不定法、能動態、現在 (~であること)
  • mālit :不規則動詞mālō, malle (むしろ望む)直説法、能動態、現在、3人称単数
  • quam :副詞(~よりも)
  • honestior :第1,2変化形容詞honestus, -a, -um (高潔な、立派な、尊敬に値する)の比較級 男性、単数、主格
  • ut :接続詞 ・・・の結果として(後続のようになる)
  • nec :接続詞 ~でなく、~でもない
  • bibant :第3変化変化動詞bibō, -ere (飲む)接続法、能動態、現在 3人称単数
  • sine:前置詞 (~なしに)
  • ambitiōne :第3変化名詞ambitiō, -ōnis f. (誇示、人気取り)
  • nec :接続詞 ~でなく、~でもない
  • ēdant:第3変化変化動詞ēdō, -ere (食べる)接続法、能動態、現在 3人称単数
  • esse :不規則動詞sum, esse 不定法、能動態、現在 (~であること)
  • quam :副詞 (~よりも)
  • vidērī :第2変化動詞 vedeō, -ēre(見る)不定法、受動態、現在(見られること)
  • bonus :第1,2変化形容詞 bonusu, -a, -um (良い、優れた、立派な)男性、単数、主格
  • mālēbat:不規則動詞mālō, malle (むしろ望む)直説法、能動態、未完了過去、3人称単数

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